プロパティと個人データ

no extension

前回の続き。 っていうか, 実は書きたかったのは今回のほうで, 前回のはただの前振りだったり。 essa さんの記事をだしに使ってしまって申し訳ありません。

@nifty がプロフィールサービス「about me」をリリースした。 自分でコンテンツを立ち上げるのは正直しんどいのだが, あちこちのサービスにコンテンツが分散している状態にもウンザリしている人にとっては, こういう「自分まとめページ」とか「自分ポータル」といったサービスはありがたい。 逆に(「nowaとアバウトミー」でも指摘されているが) nowa のような全部入り(っていうか全部二番煎じ)みたいなものには全く食指が動かない。 膨大なコンテンツを引っさげて似たり寄ったりのサービスの間を放浪するのではなく, 折角 feed があるのだから, feed を集約してひとつのコンテンツとして見せるほうがスケールしやすい。 (まぁ今はそのためのプラットフォームを誰が握るかという競争の段階なんだろうけど)

私が利用しているのは「SuprGlu」「iddy」と今回リリースされた「about me」だ。 「SuprGlu」は上で述べたようなことをやってくれる。 気付いた人もいるだろうが, あちこちのコンテンツを集約して見せるやり方は planet と呼ばれ定着しつつある。 例えば Linux ディストリビューション関連では「Planet Vine」「Planet Debian-JP」なんてものがある。 「SuprGlu」は, 言ってみれば, 自分 planet とでも言うべきサービスだろう。 (なんか星の王子様みたいだけど)

「iddy」はもう一歩進んでいる。 自コンテンツを並べるだけではなく, そこに自分に関するプロパティ(属性情報)を加えることでプロフィールとして機能している。 名刺に電子メールアドレスを入れることは,もうすっかり定着しているが, プロフィールサービスが一般化するようなことになれば, 名刺に自分のプロフィールページの URL を書くようなことも一般化するかもしれない(妄想だよ)。 しかしプロパティというのは基本的に静的情報であり, 一度自分のプロフィールページを作ってしまえば自身でそこに再び訪れることはほとんどない。 私も「iddy」で作ったページは基本的に放置している。

そして, そこから更に進んでいるのが「about me」だ。 「about me」「iddy」と異なるのは

  • 動的に更新できるステータス
  • コンタクトリストとメッセージング機能
  • 「質問」に答えるという形でプロパティが無限に増えていくこと

だ。 自分で使ってみてはじめて分かったが, 最後の「質問」機能は本当にヤバい。 ボーっとしてると次々質問に答えている自分がいる。

(新聞系サイトの記事にはリンクしないことにしてるので場所は示さないが) YOMIURI ONLINE によるプロフの記事「ケータイで自己紹介、女子高生にプロフ流行」では 「その数は40~100項目にも及ぶが、彼女たちの多くが几帳面にも、すべての項目に答えを書き込む」 と書かれているが, 分かるような気がする。 質問群に答える行為になんとなく没頭してしまうのだ。 しかし「about me」の質問内容を見てみると「mixiで足跡ついた。読み逃げされた、どうよ?」みたいに意見を投票させるものもあれば「ユーザIDとパスワードを入力してください。」みたいなものまである。 これらの回答データは(場合によっては質問自体も)全てユーザのプロパティとなり, (まぁさすがにユーザ ID とパスワードをマジ答えする人はいないだろうが)内容によっては個人データにもなり得る。 個人データが集積すればそれは個人情報になり得る。 (データと情報は違う。 詳しくは『セキュリティはなぜやぶられたのか』の p.235 からを参照のこと。 キーワードは「オープンソースインテリジェンス」。 なお, 個人情報保護法でも個人データと個人情報を区別しているが, ここで書いているものとは意味合いが少し異なるのでご注意を)

「about me」は明らかにプロフを意識している。 動的に変更できるステータスもプロフ的な機能だ。 「前略プロフにみるtinycafeさんを凌駕する思考を持つ人たち」 によると, ユーザはステータスを頻繁に変更することでコミュニケーションをはかっているらしい (ただしプロフがこのように使われるのはデバイスとしてのケータイの貧弱さによるものであり, 「about me」で同じ事が起こるかどうかは全く分からない)。 更に先に紹介した YOMIURI ONLINE の記事ではプロフは名刺のような感じで交換されているそうだ。 プロフの URL を交換することが「友達ダイアグラム」に参加するイニシエーションとなっているのだ。 プロフ自体がデータを全てオープンにしているのにもかかわらずユーザレベルでは個人データを含む大量のプロパティを入力してしまうのは, プロフが既にある人的ネットワーク内の儀礼・典礼の手段として使われている(つまり「外部」を想像できない)からではないかと考えられる。

こういった(脅威とまではいかないまでも)懸念に対する対応は口で言うだけなら簡単だ。 ネットに対するリテラシーを高めていけばいい。 しかし, これは実際には簡単ではない。 既に存在する環境に対するリテラシーを高めるには少なからず訓練が必要だからだ。 英会話を習得することが必要であると思わない限り絶対に英語が喋れるようにはならないように, リテラシーが必要であると意識しない限りそれが高まることは絶対にない。 教育によってそれを高めていけばいいという意見もあるかもしれないが, 少なくとも日本の学校教育にネットに対するリテラシーを高める訓練を行うカリキュラムは見当たらない。 その環境に内在する「不都合な真実」はフィルタリングし「外部化」すればいいと思っているのが日本の学校(というか戦後以降の日本)だからだ。 (もちろん偏見)