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「自分探し」は止めなくてもいい

面白い記事があったので, あの話をもう一度。

(以降,まだ続いている)

「その3」 では, 私の記事ともうひとつの記事を並べて

「どれも、我々『あいのり』世代の自分探し観と微妙にずれた、彼らの世代の自分探し観を前提として持論を展開し、議論を切り上げてしまっているように思えます。」

と書かれているが, 前にも書いたように, 私は「自分探し」とか「自己啓発」といったキーワードに強烈なアレルギーがあるため, 議論はちょっと難しいかも。 これから書くことも単なる列挙に過ぎないけど, まったく無駄というわけではないだろう。 ちなみに 『自分探しが止まらない』 の内容についての感想は他所でも書いていて, そのときは

「個人的に、 この本の欠点と思われる部分は、 あらゆる事象を「自分探し」と結び付けすぎてる点と、 何故「止まらない」かという疑問に対して個々の部分(政治が悪いとか「自分探しホイホイ」な企業・組織が悪いとか)だけを見ていて系全体を見回す視点に欠けている点だと思う。 その結果、 止まらない自分探しをどうにかしたければ自分を変えるしかないという堂々巡りになってしまっている。 要するに『自分探しが止まらない』はそれ自体が自己啓発本なのである。 まぁそういう意味で、 この本は「症状」として面白い本だと思うけどね。」

としている。 以降は, その辺をもう少し掘り下げてみる。

まずひとつめ。 「その1」 にある

「答えはどこにあると思いますか?」

という問いに自分なりに答えるなら, 「どこにもない」になる。 答えは探すものではなくて構築するものだからだ。 これが世代的な考え方なのかは分からないが, この最初のつかみだけでも断絶(?)を実感することができる。 これについては最後に再び言及する。

ふたつめ。 「その2」 では

「仕事=自己実現であり、 答えは自分の中にあるのであり、 就職活動=本当の自分探しであるという考え方に疑問すらわかない状態です。」

と書かれているが, 一方の私にとっての仕事は, あくまで(目的を達成するため,あるいは単に食べるための)手段であり, 就職は仕事をするために必要な「社会への適応」だった。

(なぜそうだったんだろうと考えてみるに, 当時は社会が私たち学生に対して「社会への適応」を要請していたからだと思う。 それは超売り手市場のバブル絶頂期でもそうだった。 おそらくこの傾向は上の世代ほど強まるんじゃないのかな。 今って超売り手市場と呼ばれている割には新卒に対してさしたる期待も要請もないように見える)

でもこの違いって(次に書くけど)要するに「自分探し」のモードが違うだけなんだよね。

みっつめ。 多分これがいちばん象徴的。 「その1」 で書かれている 「これだけは誰にも負けないという何かを、何でもいいから持つべし!」 という価値観に対する奥さんの反論(?)という構図は, 価値観を「強度」におくか「関係性」におくかの違いだろう。

「ねるとん」時代に言われた「三高」も, 「あいのり」で追求される「本当の自分」も, それが自己の強度の問題である限り「自分探し」は内面に向かうしかない。 これがいきすぎると「ひきこもり」とかになっちゃうわけだけど。 一方, 上で挙げた「社会への適応」は関係性, すなわち社会に対する自身のポジションをどうするか(どうしたいのか)ということだ。 これはいろんなものに置き換えられる。 友達関係,職場関係,恋人関係,夫婦関係,親子関係等々。 「あいのり」の「本当の私を分かってくれる人」ってのも対象との関係の中に「本当の私」を見出しているってことだろう。 まっ, これもいきすぎると共依存とかになったりするが。

要するに「自分探し」ってのは症状だ。 自己の強度にこだわりすぎて何も行動を起こせなくなったり, 対象との関係に悩むあまり自己破壊的な行動に走ったりっていうのは(WHO 的な意味で)「健全」とは言えないよね。 逆に「自分探し」が症状であると知った上でうまく付き合っていけるのなら何の問題もないと思う。 ん~, 症状という喩えがピンとこないなら, こう言い換えてもいいだろう。 「自分探し」ってのはプロセスだ, と。

ここで最初の話に戻る。 答えはどこにあるのか。 答えとはプロセスにより構築された何かだ。 そういう意味で「自分探し」を止める必要はない。 「探すな決めろ」ってのは答えを決めろってことではなくて, プロセスを開始せよってことだ。

でもね, 「自分探し」は「条件付け」を受けやすい。 だからカモにされる。 だから私は「自分探し」とか「自己啓発」とかいったキーワードが嫌いなんだよ。 そして 『自分探しが止まらない』 もそうした自己啓発本のひとつに過ぎない。 あの本をベースに考える限り, 私には議論以前の問題なのである。