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「小澤の不等式」が実証された!

「ハイゼンベルグの不確定性原理」をご存知でしょうか。 高校物理や大学の教養科目などで量子物理学をちょこっとかじったことのある方なら聞いたことがあると思います。 以下の式ですね。

εqηp ≧ h/4π

ここで εq は測定する物体の位置の誤差, ηp は位置を測定したことによって物体の運動量に生じる乱れを表しています。 h はプランク定数, π は円周率です。 つまりこの式は,位置と運動量をともに厳密に測ることはできないということを表しています。 私も学生時代はこう習いました。

しかし数学者の小澤正直・名古屋大学教授は,「ハイゼンベルクの不確定性原理を破る測定は可能」と主張します。

「だが小澤は,ハイゼンベルクの式には重大な見落としがあるという。 観測される側の物体がもともと備えている量子ゆらぎと,観測によって物体の状態に生じる乱れを混同しているのだ。 両者をきちんと分けて考えれば,ハイゼンベルクが見落とした可能性が見えてくる。 測定される物体の状態と,測定誤差や測定によって物体に生じる乱れとの間に相関があるような測定なら,「誤差ゼロ」の測定も可能になるのだ。 ハイゼンベルクの式は,あらゆる観測について常に成り立つ式ではない。」 (「物理学の常識に挑む数学者 小澤正直」より)

というわけで,2003年に提唱されたのが以下の式です。

εqηp + σqηp + σpεq ≧ h/4π

これが「小澤の不等式」と呼ばれる式です。 ここで σqσp は,それぞれ物体の位置と運動量が測定前にもともと持っていた量子ゆらぎです。 つまり,この量子ゆらぎと測定による誤差や乱れを区別したわけですね。

「小澤の式はハイゼンベルクの式と違って,εqやηpがゼロになっても,σqやσpが無限大であれば成立します(量子ゆらぎが無限大になっても測定はできます)。 つまり誤差ゼロの測定が実現できるのです。 量子もつれになった2つの粒子ならそうした測定が可能であることも,理論的に示唆されました。」 (「ハイゼンベルクの不確定性原理を破った! 小澤の不等式を実験実証」より)

今回は,ウィーン工科大学原子核研究所の長谷川祐司准教授らの実験によって「ハイゼンベルクの不確定性原理」が破れ,「小澤の不等式」が実証されたことが画期的でした。 実は,

「ですがその後,小澤の不等式が登場し,量子コンピューターのエラー確率の推定などに威力を発揮し始めると,物理学界の反応は「なんか怪しい」から「これは本物だ」へと,見る見る変わっていきました。 2000年代後半には,少なくとも量子情報の分野では,小澤の式を前提に議論が進められるようになっていました」 (「ハイゼンベルクの不確定性原理を破った! 小澤の不等式を実験実証」より)

ということで,理論の上では既に「小澤の不等式」に傾いていたようです。

今回の実証は量子物理学を覆すものではなく,むしろ科学・技術の新たな発展の可能性をひらくものです。

「名古屋大学は今回の成果について、基礎科学の発展にとどまらず、ナノサイエンスの新たな測定技術、重力波の検出、量子暗号の開発への応用が期待できる、と言っている。」 (「不確定性原理の不完全さ実験で証明」より)

今後の展開を期待したいと思います。