電子書籍という「熱さ」は喉元を過ぎた

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大原ケイさんの『アメリカの電子書籍“ブーム”は今』読了。 なんか既視感があると思ったらブログ記事を読んでたからか。

『アメリカの電子書籍“ブーム”は今』はこれら記事を加筆・修正する形で書かれている。 なので記事をまず読んでみて面白いと思ったら買ってみるのも手だ。

この本は同著者の『ルポ 電子書籍大国アメリカ』の経過報告とも言える内容で,2013年米国の出版状況の分析と今後についての予測が書かれている。 大雑把に列挙すると

  • 米国におけるEブックの流行は終了し,全売り上げの3割弱で安定。Eブックデバイスも行き渡っている。今後徐々に増えて数年後には5割程度になるかも
  • Eブックの売り上げの多くは(ISBN の付かない)自己出版(self publishing)に流れている。自己出版のEブックは数が多い上に玉石混交でベストセラーと呼べるものも少なく実体が把握できてない
  • YA および児童書のジャンルではEブックの普及はこれから
  • 米国では漫画はメジャーではない。日本の漫画は米国の rating に引っかかりやすく取り扱いが難しい
  • 「本屋」さんは死んでない。特に独立系の本屋は独自の戦略を展開してしぶとく生き残ってるし,これからも生き残るだろう
  • 米国では「本を読まない」ことは珍しくないし恥ずかしいことでもない。故に「誰もが本を読む(べき)」という前提に立った戦略をとっていない
  • ストリーミング型読書の登場

といったところか。 ちなみに大原ケイさんは電子書籍を「Eブック」と表記している。 米国は違うだろうが,日本では「電子書籍」は官製用語なので安易に使うべきではない。

個人的には以下の記述に共感する。

アメリカはもともと,みんながみんな本を読むことに期待していないというべきか、読書人口では日本とそんなに変わらないと思われる。でもやっぱり本が好きな人は好きだし、何が面白いのか自分たちで見つけてくるし、ちゃんとそこにお金を使っている。
筆者は筆者で、そういう読者と自らコミュニケーションをとることを厭わないし、本は「モノ」ではなくて、メッセージをやりとりする「ツール」だと割り切っている感じがする。だからこそ読者は、自分で納得した上で紙の本を買うかEブックをダウンロードするかを選択しているといっていいだろう
アメリカの電子書籍“ブーム”は今より)

いまや読者は「市場」の売り上げ数値や雑誌のアンケート結果ではなく,(既存のメディアをすっ飛ばして)作者にダイレクトに接続してくる。 そこを積極的に肯定して上手く付き合っていける人だけがアーティストとして生き残る。 「むしろ、「お金のことはわからない。そんな時間があれば作品を描きたい」というマンガ家が多いのではないか」なんてヌルいことを言ってる場合じゃないと思う。

『アメリカの電子書籍“ブーム”は今』の続きとも言えるブログ記事も上がっている。

言い換えれば「日本の男性は本が好きだから、面白いから、ではなく、“本をよまなくちゃ” “勉強しなくちゃ” “知識を得なきゃ”という観念に囚われて本を読んでいると感じるんだよねぇ。以前、このグラフを見て、日本と韓国と上海にその傾向が顕著だということは、なにか儒教的な束縛なのかしらねぇ、と思ったものだ。
だからもしかして日本で書籍の売上げが落ち続けているのは、バブル以降の若い世代の男性が「本をよまなくちゃ」という言外の束縛から解き放たれているだけなのかもしれない。
売上げシェアは3割だけど、アメリカ人の半数以上はEブックを読んでいるより)

という分析は面白い。 確かに私たち世代やその上の世代では,本は「教養」の象徴という「刷り込み」がある。 そういう刷り込みから自由であるというのなら「若者の読書離れ」はいいことなのかもしれない。 ただ米国では

読書人口を年齢層で分けると、ベビーブーマー世代から上が、ミレニアム世代よりたくさん本を読んでいる。だが、「最近半年間で読書量は増えたか、減ったか」を聞くと、上の世代(14〜15%)よりもミレニアム世代(21%)が「増えた」と答えているので「若者の本離れ」とは決めつけられない部分がある。
売上げシェアは3割だけど、アメリカ人の半数以上はEブックを読んでいるより)

なんだそうだ。

日本の漫画に関しては,最近マガジン航に以下の記事が上がっていた。

漫画って「本」に過剰に最適化されてるよね。 私は基本的に4コマ漫画しか読まないので Kindle みたいな本のメタファを延長したような端末でも全然 OK なんだけど。 漫画こそ「紙」を卒業すべきと思う。 まぁそうなったらもう漫画じゃなくなるだろうけど。 そういう意味で将来的に漫画はなくなっても構わないと思っている。 (ホンマかどうか知らないけど,最近の子どもには漫画の読み方を知らない子もいるって聞くし)

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アメリカの電子書籍“ブーム”は今 (カドカワ・ミニッツブック)
大原 ケイ
ブックウォーカー 2014-05-15
評価

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『ルポ 電子書籍大国アメリカ』の続編的な位置づけ。2013年米国の出版状況の分析と今後についての予測。

reviewed by Spiegel on 2014/10/18 (powered by G-Tools)

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ルポ 電子書籍大国アメリカ (アスキー新書)
大原 ケイ
KADOKAWA / アスキー・メディアワークス 2010-09-09
評価

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電子書籍に関する本を読むなら最初にこの本を読むことをお勧めする。

reviewed by Spiegel on 2014/10/18 (powered by G-Tools)