『インテンション・エコノミー』を読む

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えーっと,最初に逃げ道を用意しておくと,ちゃんとした書評を読みたいのであれば yomoyomo さんの読書記録を読まれることをオススメする(っていうか,この書評を読んで本を買う気になったのだが)。 ここでは『インテンション・エコノミー』を読んで思い浮かんだことをつらつらと書いていこうと思う。

で,毎度毎度苦言から始まるのだが,縦書きはやめようよ。 英単語を無理に向きを変えて書くのも読みにくいし,更に言えば英単語をカタカナに変換するのはもっと読みにくい。 いくら私が英語不得手だといっても,わからない単語があったら辞書を引くくらいの知恵はあるって(ひょっとして馬鹿にされているのだろうか)。 カタカナで書かれたら余計に意味がわからんぢゃん。 だいたい『憲法ガール』だって横書きで書かれるご時世だよ。 無理に縦書きにする理由なんてないぢゃんか。

というわけで,愚痴は終わり。

この本を読みたい,と思ったきっかけは, yomoyomo さんの読書記録で紹介されている「クルートレイン宣言(cluetrain manifesto)」(和書では『これまでのビジネスのやり方は終わりだ―あなたの会社を絶滅恐竜にしない95の法則』というタイトルで刊行されている。私は送料別で100円で発注した)だ。 この中の最初にある「市場は対話である」を見て,今読みかけの(そして絶賛積ん読中の)『BE ソーシャル!』とリンクしてると感じたのである。

ちなみに斉藤徹さんの『ソーシャルシフト』およびその続編である『BE ソーシャル!』はまっとうなビジネス書である。 巷で「ソーシャル!ソーシャル!」と騒ぐソーシャル・ゴロではない。 企業が,ソーシャルメディアを含むあらゆる「顧客接点」を最大限活用し,「生活者」(斉藤徹さんの著作では顧客や企業の従業員なども含めて「生活者」と呼び「消費者」と区別している)との対話によって経済活動を行うにはどうすればいいか。 それを豊富な事例を交えながら論じていっている。 はっきり言って経営者やそれに近い(もしくはそれを目指している)人たちには是非ともお薦めの本である。

とはいえ,私個人としてはいくつかの違和感があって(例えば「絆」に関することとか),それは一言で言うなら,生活者(顧客)から見た「ソーシャルシフト」した企業がどのようなものかよくわからない,ということだ。 この辺のことは『インテンション・エコノミー』では「顧客と企業の直接的なやり取りはパーソナルであり、ソーシャルではない」(p.99)などとバッサリ書いてあって面白い。

「インテンション・エコノミー(Intention Economy; 意志の経済)」とは, yomoyomo さんの読書記録から引用させてもらうと

「 インテンション・エコノミーとは買い手が価値の源泉となる真の意味でオープンな市場であり、VRM(企業関係管理)が CRM(顧客関係管理)にとってかわり、顧客は企業に囲い込まれることなく、つまり消費者として集合的に扱われるのでなく企業との関係はパーソナルなものになる。
 つまり、顧客の側が自分に関するデータの主導権に握り、自らの意思に従い企業との関係を決められる。それには顧客側に立ちそのニーズの代理人として機能する「フォース・パーティ」の存在が必要になるし、顧客と企業の間には対話的でオープンな API が提供されることで市場のオープンさが担保される。」
(「yomoyomoの読書記録 - ドク・サールズ『インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済』(翔泳社)」より)

ということだ(いいまとめなので引用させてもらいました)。

(ちなみに「フォース・パーティ」というのは「第四者」という意味。 企業と顧客という関係があるときに CRM を運営する「第三者(サード・パーティ)」は企業側につくことになる。 だから顧客側につく VRM を運営する「第四者」が必要というわけ)

違う言い方をしようか。 斉藤徹さんの一連の著作では従来の CRM からソーシャル CRM へのシフトを説いているが,『インテンション・エコノミー』では顧客が市場で真に自由になるための VRM の必要性を説いている。 そしてその中心にあるのが「クルートレイン宣言」というわけだ。 (ソーシャル CRM については『インテンション・エコノミー』の第五章に記述がある)

VRM ってのはちょっと SF 的な感じだよね。 たとえば,随分前に読んだグレッグ・イーガン氏の『万物理論』には VRM ツールっぽい記述がいくつかあった。 私はあまり SF を読まないが,他の作品にもそういうものはあるかもしれない。 現在 Project VRM が稼働しているが,英語不得手の私にはよくわからない(もちろんいくつかの VRM の成果については『インテンション・エコノミー』に記述がある)。 今後注意してみていきたいのだが,どうしたものか。

もうひとつ面白かったのは「ビッグ・データ」の扱い。 実は顧客が市場で主導権を握るということは,ビッグデータを無意味化する。

「今後10年にわたり、あなたがデータを所有し、シェアできる能力が、我々の業界を変革していくだろう。 あらゆるものが、人々、個人、そして、それらが持つ大量データを中心として形と位置づけを変えていく地殻変動が起きる。 (中略)誰もが「ビッグデータ」について語っているが、これはビッグデータの話ではない。 スモールデータ、つまりマイデータの時代が始まろうとしているのだ。」
(『インテンション・エコノミー』 p.276-277 より)

これはもうひとつ意味があって,スモールデータの時代になれば,プライバシーに関する情報を顧客側がある程度コントロールできることになる。 本当にこういう時代になればいいなぁ,と思う。

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インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済 (Harvard business school press)
ドク・サールズ 栗原 潔
翔泳社 2013-03-15
評価

ユーザーファースト~テレビとスマホの視線争奪戦を生き抜くマーケティング思想~ 顧客を知るためのデータマネジメントプラットフォーム DMP入門 (NextPublishing) データ・サイエンティストに学ぶ「分析力」    ビッグデータからビジネス・チャンスをつかむ ソーシャル時代の ブランドコミュニティ戦略 オウンドメディアで成功するための戦略的コンテンツマーケティング

by G-Tools , 2013/06/06

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これまでのビジネスのやり方は終わりだ―あなたの会社を絶滅恐竜にしない95の法則
リック レバイン ドク サールズ クリストファー ロック デビッド ワインバーガー Rick Levine
日本経済新聞社 2001-03

インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済 (Harvard business school press) コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践 (Harvard Business School Press) 物語力(ストーリーりょく)  ワートマンの「人の心を鷲掴みにする仕事術」 (East Press Business) 急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則(ソフトバンク文庫) マキコミの技術

by G-Tools , 2013/06/06

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BE ソーシャル! ―社員と顧客に愛される5つのシフト
斉藤 徹
日本経済新聞出版社 2012-11-13
評価

ソーシャルシフト―これからの企業にとって一番大切なこと ビッグデータ時代の新マーケティング思考 レイヤー化する世界 (NHK出版新書 410) MEDIA MAKERS―社会が動く「影響力」の正体 顧客を知るためのデータマネジメントプラットフォーム DMP入門 (NextPublishing)

by G-Tools , 2013/06/06


ところで全くの余談ですが, Google Reader の代替えって皆さんどうしてます。 私は digg が Reader をリリースしてくれるのをひたすら待っているのですが,全くさっぱり音沙汰が無い感じです。 しょうがないので feedly を試しています。 意外に使い勝手がいいので,最悪これでいこうかと。

さて,そろそろ『BE ソーシャル!』を読み進めないと。