「さようなら、「電子書籍」」他

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暑いです。 定期的に病院に通ってますが,辿り着く前に熱中症になりそうな勢いです。 皆様,暑中お見舞い申し上げます。 さて,今回も小咄をいくつか。

脱 Apple

Nexus 7 (2012) の OS が Android 4.3 にアップデートされた。 といっても,見た目ではあまり変わらない感じ。 2013年版の Nexus 7 はなかなかいいスペックで羨ましいのだが,7インチタブレットばっかりたくさん持ってても仕方ないので,今回は見送り(お金もないしね)。

そういえば Android 4.3 や新しい Nuxus 7 についての以下の記事がなかなか面白かった。

「アップルフリークであることを自認していて、基本的にはアップル製品で身を固めていたはずが、気付いてみたら携帯電話はNexus 4が気に入っており、新型Nexus 7も購入して、モバイルプラットフォームがAndroidメインにシフトし始めてます。」
(「グーグルのプレスイベントで見るグーグル新時代の幕開け」より)

iPhone はとっくに先行者優位性を失っている。 iPad にしても先行者優位性を失いつつあると思う。 市場におけるシェアはそう簡単には落ちないだろうが,伸びる要素もない。 電子部品メーカーも今年に入ってからの「Apple ショック」(iPhone 5 の需要が予想を下回った結果,2013年1~3月期の生産量が半減してしまった)を受けて「脱 Apple」へ方向転換しつつあるらしい(今更という気もするが)。

おそらく Apple 製品はこれ以上伸びる要素がない。 自社製品を否定するような画期的なものが出ない限り。 でも,それはおそらく無理だろう。 今の Apple には自己を否定し前に進めるような思想もパワーもない。

“Winny developer Isamu Kaneko Passes Away at 42”

まずは金子勇さんのご冥福をお祈りします。 私も34歳の時に心筋症で死にかけたことがあるので他人ごとではないです。

いきなりで恐縮だが,私は Winny というプロダクトを評価していない。 これは作者の金子勇さんの著作『Winnyの技術』を読んだ上でである(ちなみにこの本は既に売っぱらった)。 でも Winny をめぐる裁判は国内のエンジニアリングに対して大きな傷を作った。

「だが金子さんの逮捕そして起訴は,日本のIT人材育成に大きな影響を与えた. 特に,科学技術社会論や技術者倫理の現行教科書にはいまなお影響が残っている. 高裁の無罪判決が出て最高裁が判断を示した後も,ソフトウェア開発者は著作権法違反幇助で訴えられる場合がありますと書きながら,どうやって自分の書いたソフトウェアを使ってもらえばいいのかという続きを書いていない教科書が多すぎる. これでは 書いたソフトウェアを人に使わせるなという結論にしかならない. 教育現場では古い教科書を一掃する努力を続ける必要がある.」
(“Winny developer Isamu Kaneko Passes Away at 42” より)

Winny 裁判を教訓にするのなら,エンジニアの地位向上を目指していくしかない。 感傷に浸っている暇はないのだ。

「さようなら、「電子書籍」」

なかなか呆れる内容である(文章のことではなく記事中に登場する「コンテンツ緊急電子化事業(通称:緊デジ)」がね)。

「「緊デジ」事業とは、2011年度の第3次補正予算で10億円が計上された総額20億円に上る補助金事業で、正式名称は「平成23年度地域経済産業活性化対策費補助金(被災地域販路開拓支援事業)」という。 経済産業省によると、その目的は以下の通りである。
被災地域において、中小出版社の東北関連書籍をはじめとする書籍等の電子化作業の一部を実施し、またその費用の一部負担をすることで、黎明期にある電子書籍市場等を活性化するとともに、東北関連情報の発信、被災地域における知へのアクセスの向上、被災地域における新規事業の創出や雇用を促進し、被災地域の持続的な復興・振興ならびに我が国全体の経済回復を図ることを目的とする。

(「さようなら、「電子書籍」」より)
「そもそもこの「緊デジ」事業には、素直に賛同しがたい点があった。 わたしが編集人をつとめる「マガジン航」というサイト上で、Ebook 2.0フォーラムの鎌田博樹がいち早く指摘したように、「震災復興」と「電子書籍ビジネスの振興」には、直接的な関連性はない。 どう考えても復興云々は予算獲得の方便にすぎず、国策による電子書籍市場の活性化が主目的だと思えた。 そうした疑念を抱えつつも、外部から憶測で批判するよりは、内部で正確な情報を得たうえで議論したいと考え、わたしは審査委員を引き受けたのだった。 しかし昨年5月以降、日本出版インフラセンター(JPO)からの連絡はふっつり途絶えた。 審査委員会もお役御免になったのか、その後は二度と開催されなかった。
とはいえ、事業の推移は(申請数が伸びず、あまりうまく行っていないことも含め)サイト上で報告されており、いずれ公表されるであろう電子化書目の確定を、密かに楽しみにしていた。 たとえ数は少なくとも、それなりにいい本が電子化されるのではないかという期待もあった。 結果的に、その期待は半分は叶えられ、半分は裏切られたことになる。」
(「さようなら、「電子書籍」」より)

いやぁこの「緊デジ」って「復興ゴロ」ですがな。 更に続けよう。

「日本における「電子書籍」の紆余曲折の歴史を、あらためてここで振り返ることはしないが、数年来メディアを騒がせているこの言葉が一般名詞ではなく、特定の色合いをもつ一種の「官製用語」であることは知っておいたほうがいいだろう。 1999年11月から2000年1月まで続いた「電子書籍コンソーシアム」によるブックオンデマンド総合実証実験がその起源であり、現在に至る日本における「電子書籍」ビジネスの原型をつくったことは間違いない。
このとき以来、日本の「電子書籍」ビジネスには、以下の要素がつきまとうようになる。 すなわち、1)基本的に官庁が旗振り役をし、2)出版社が(主に既刊本から)コンテンツを提供し、3)電機メーカーが横並びで専用端末を製造し、4)通信キャリアがコンテンツ流通を担う、という分業体制と、5)書店を排除せずなるべく協業し、6)インターネットにおける最新のトレンドやプレイヤーを度外視する、というものだ。」
(「さようなら、「電子書籍」」より)

いやはやなんというか。 特に「6)インターネットにおける最新のトレンドやプレイヤーを度外視する」という部分は悪意すら感じる。 要するにこの「電子書籍」というやつは「知財ゴロ」で「復興ゴロ」の巣窟ということのようだ。 呆れた話である。

道理で日本はいつまで経っても「電子書籍元年」から先に進めないはずだよ。

ルポ 電子書籍大国アメリカ』を読めばわかるが,アメリカだって一朝一夕でデジタル本のプラットフォームを整えたわけではない。 日本がアメリカ(デジタル本で突出してるのはアメリカ)に負けないようにしたいのなら,その古い商慣行,産業構造を(ときに破壊的に)変えていかなくてはならない。 誰のための本なのかよく考えて欲しい(少なくとも出版社や書店のためではない)。 読者は欲しい本が買えるのなら別に舶来のプラットフォームでも構わないのだ。 それよりもむしろ本を横断的に検索し読者をうまくマッチングするようなサービスでも作ったほうがよほど役に立つ。

昨年末に Kindle が登場してようやくプレイヤーが揃った。 官や業界の横ヤリはもう止めてもっとフェアに競争して貰いたいものである。

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Winnyの技術
金子 勇 アスキー書籍編集部
アスキー 2005-10
評価

P2Pがわかる本 (なるほどナットク!) 入門 Skypeの仕組み~無料IP電話を支えるピアツーピア技術 開眼!  JavaScript ―言語仕様から学ぶJavaScriptの本質 マスタリングTCP/IP OpenFlow編 小学生からはじめるわくわくプログラミング

by G-Tools , 2013/08/02

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ルポ 電子書籍大国アメリカ (アスキー新書)
大原 ケイ
アスキー・メディアワークス 2010-09-09
評価

電子書籍の時代は本当に来るのか (ちくま新書) 2015年の電子書籍 出版大崩壊 (文春新書) 電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ (ビジネスファミ通) 電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)

by G-Tools , 2013/08/02